分析は割り算、計画は掛け算。経理の本当の意味について
個人事業者の方は決算の時期が近づいてきましたが、帳簿の整理は進んでいるでしょうか?
本業の方が忙しくて経理が遅れがちになったり、まとめて帳簿作成をしているという方も多いかもしれませんね。
こういった方は、帳簿を付ける目的が「確定申告のため」だけになっていたりします。
今回はそのあたりの話をしたいと思います。
割り算の必要性
先日、うちの10歳になる息子が宿題を前にしてウンウン唸っておりまして、腹でも痛いのかと思ったら、どうやら「余りのある割り算」の宿題に悪戦苦闘していたのです。
息子は算盤を習っているので計算は決して苦手ではないものの、なぜか「余りのある割り算」だけが苦手みたいです。
前日には計算ドリルで掛け算の問題60問という宿題を鼻歌交じりに10分くらいで仕上げていたのに、たった10問の割り算に、かれこれ30分以上も格闘しているわけです。
掛け算は得意なのに、割り算が苦手と言う不思議な子供です。(笑)
そんな息子を見ていて、ふと昔の先輩から聞いた言葉を思い出しました。
「分析は割って割って割りまくれ!」
この言葉は、私が国税に勤めていた時代に先輩から聞いた言葉なのですが、経営分析をするときには、あらゆる関連科目の比率を割り算で割りまくって分析しなさいという意味です。
経営分析では、売上総利益率や資本回転率など一般的な比率をよく目にしますが、国税の世界では人件費に対する法定福利費率だとか、パチンコ業者の出玉率だとか、とにかく異常係数が無いかどうかをあらゆる角度から割りまくって分析する必要があったわけです。
当時は税務調査における要調査項目を絞り込むために分析していたのですが、今でも顧問先様の経営分析では割り算を使って割りまくってます(笑)
こういった分析作業は、その企業の過去を知るうえで非常に重要なものになりますが、過去を知るというだけでは分析をしている意味はありません。
当然ながら、その分析結果を未来に生かしていかなければならないわけです。
未来は掛け算
過去の分析から、自社が取り扱う商品の利益率や収益力、あるいは資金繰り状況などを把握したら、今度は未来の計画に生かしていかなければなりません。
この計画をするときに必要になってくるのが、先ほどの分析で得た「比率」なのです。
簡単な例でいえば、
当社の主力商品の粗利益(売上総利益)率が25%だった場合、固定費を1000万円とすると、営業損益が黒字になるために必要な売上高はいくらなのか?
1000万円÷25%=4000万円
赤字経営にしないためには4000万円の売上が必要ということがわかります。
本当は数種類の主力商品ごとに細かく積み上げ計算をする必要があるのですが、とりあえずの例として上げてみました。
このように、過去の販売実績から粗利益率が25%であることを把握しているからこそ計算できるわけで、過去の実績が不明だった場合には定価などで計算することになってしまいます。
定価で計算すると、実際の取引で発生する値引などが加味されないので、「目標売上を達成したのに赤字になってしまった」という結果も有り得るわけです。
もうひとつ、将来の事業計画をするうえで大切なのは売上と連動するコストの積算です。
先ほどは粗利益率が一定だったという仮定で積算しましたが、実際は売上とともに変動するコストが多数存在します。
人件費や広告宣伝費などを例にしてみると…
売上を目標金額に到達させるために人員の増強が必要になる場合や、広告宣伝を強化して集客を図るといったことを考えるとしましょう。
これらのコストは必ずしも売上に貢献するかどうかは不安定なものです。
そこで、過去の実績から人員1人あたりの売上金額や広告宣伝費10万円あたりの売上貢献率などといった実績数値を割り出してきて計算すれば、一定の正確性を保つ計画を練ることができるのです。
さらに長期間のデータがあれば、従業員1人あたりの経験年数別貢献売上率などを割り出して、新人の時期から経験を積むにしたがって増加する売上推移を予想することも可能なのです。
もう気付いた方も多いと思いますが、これらの計画を立てるうえで計算に用いているのは「掛け算」です。
増加した従業員数×貢献売上率=予想売上高
広告予算増加額×広告の売上貢献率=予想売上増加額
というった感じです。
未来予想は掛け算なのです。
経理の本来の目的
経理や会計処理は確定申告のためだけにするものではありません。
過去の経営状況を分析し、多くのデータや情報を蓄積することで、未来の経営に役立てるためのものです。
そう考えれば、記帳が遅れたり年末にまとめて記帳することが経理の持つ本来の目的を果たしていないことが分かると思います。
また、確定申告のためだけに作成された帳簿というのは情報量が極めて少ないのが特徴で、後で分析しようとしてもデータが少なすぎて将来に役立つ指標を割り出すことが難しい場合が多いです。
経理という言葉は「経営管理」の略語です。
経営をしっかり管理して、未来を設計していくことが事業の継続と発展のためにも必要なことなのです。
もっとも、事業を始めたばかりで比較的小規模なうちは、まとめて記帳していても問題になることはさほどありませんので、ついつい申告直前になって帳簿の整理を始めたりするものですよね。
小規模な事業というのは、売上が小規模というよりも人員が少ないことがネックになっているケースが多く、本業に手を取られるあまり経理に時間をかけられないというのが現状ではないでしょうか。
本当はキチンと経理もしておきたいと思いながら、ついつい…という方が多いと思います。
会計ソフトの有効活用
なかなか経理に時間を割けないけど、本当はしっかり経営を管理していきたいという経営者の方は多いものです。
かといって、経理担当者を雇用したり税理士に記帳代行を依頼するほどの資金的余裕もないというのが現状だったりもします。
そんな場合には、フィンテックに対応したクラウド型の会計ソフトの導入を検討してみるのも手です。
フィンテックというのは、金融機関やクレジットカード会社が提供する電子取引サービスの取引データを他のサービスと連携して利用者(顧客)の利便性を向上させる技術のことです。
具体的には、銀行のネットバンキングと会計ソフトを連動させて、預金取引データから自動で会計仕訳を行ってしまうといったものや、レジアプリのデータと会計ソフトを連動させて売上管理と会計処理をシームレスに処理してしまうといったもの。
最近のクラウド会計ソフトでは、ネットバンキングやクレジットカードの利用明細と連動するソフトが増えてきていて経理処理を飛躍的に効率化させるものも出てきました。
また、従来の会計ソフトが「会計処理」の部分だけを受け持っていたのに対し、請求書発行や入金管理、支払予定管理までも一元的に処理できるクラウド会計ソフトもあります。
会計ソフトを導入するメリットとして、もうひとつ大きいのが「分析資料」をソフトが自動的に作ってくれることです。
一般的な試算表や月次損益推移表は数字が並んでいるだけなので、専門家でないと正確な分析が難しかったりするものです。
しかし、最近の市販会計ソフトは、もともと事業者を想定ユーザーとして開発されているので、グラフなどを使った見やすい分析表が多くなっています。
私の個人的な感想では、【会計ソフトfreee(フリー)】なら経理から会計処理までを一元処理できるし、分析資料も見やすいものが多いので良いと思います。
もっとも、他の会計ソフトとは違い、あらゆる電子データとの連動を想定して開発されているので、そのあたりを有効に活用しないと効果は充分に得られません。
※freeeの有効活用に関する詳しい内容は当ブログの【会計ソフトfreee(フリー)を有効に活用する方法】をご覧ください。
自分のビジネスモデルにマッチした会計ソフトを導入して面倒な経理を省力化すれば事業に専念する時間も確保できますし、申告直前になって焦って帳簿作成なんていう心配も不要になります。
いずれにしても、経理の効率的なスタイルを作り上げることが肝要かと思います。
※当事務所では会計ソフトの導入などに関するご相談も承っていますので、お気軽にお問合せ下さい。
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