税理士と法律学者の役割
先日、税理士会が主催する研修に行ってきました
複数の大学教授の方々から、いろんな法律の講義を頂きました
憲法、民法、商法、会社法、行政法、税法・・・
大学教授は「法律家」であり、私たち税理士も「法律家」です
でも、その役割は違います
今回の研修で印象的だったのは、憲法の講義をされた教授の「憲法は川上の法律」という言葉です
憲法といのは、全ての法律の上位に位置するものであるため、このような表現を使われたのですが、もうひとつ教授が気にしていたのは
「実務家である税理士に、「川上論」=「総論」を講義しても、受け入れてもらえないんじゃないか?」ということ
税理士が法律を読む場合、ほとんどが「実例」について調べるためなのです
つまり、「憲法とは・・・」みたいな総論部分は実務的ではないのです
法律を学んだことのある方なら、お分かりだろうと思うのですが
法学には「総論」と「各論」があって、税理士などの実務家が重視するのは「各論」なのです
こういう事例については、法人税法○条の但し書き部分を引用し・・・云々
といった具合に、具体的事例を法律に照らして、法律効果を判断していくのです
これが、同じ法律家であっても、学者と実務家の違いと言えるでしょう
ただ、学者であれ、実務家であれ、どちらかに余りにも偏るのは問題のある部分です
総論を理解せず、各論や事例研究ばかりしていると、誤った解釈をしてしまう危険性があるのです
このことは、学者の方にも言えることで、総論的な学習ばかりしていると「机上の空論」を展開する人になってしまいます
今回の講義の中で、税法を担当した教授だけは、総論を全く取り上げませんでした
税理士を相手に、いまさら「税法とは~」みたいな話をしても仕方ないですから、当然なのですが
実際の講義は、判例に基づいて税法をどのように解釈するかというものばかり
実務家である我々にとっては、とても為になる内容でした
でも、まわりの税理士さんたちの反応は色々でして
ゴリゴリの実務派税理士さんなんかは、居眠りしてる人もいたみたいですね
まあ、「その事例なら知ってるよ」ということなのだと善意に解釈しましたけど
私は元国税職員なので、今までの法解釈は「国税側」から見てきました
しかし、今は税理士なので、税理士側からの視点が求められているのです
最近、ネット上でも話題になった事例を例にとって説明すると・・・
弁護士事務所を経営するA子さんは、シングルマザーです
そのA子さんは、ベビーシッター費用を弁護士事務所の必要経費に計上しました
A子さんの主張は
「シングルマザーが弁護士事務所を運営するには、ベビーシッターが必要不可欠。弁護士として法廷に立てるのもベビーシッターを頼んでいるから。ベビーシッターを頼まなければ弁護士業務を行うことができない」
というもの
働く女性、シングルマザーの就労など、現代的な問題も含んだ事例です
みなさんはどのように感じますか?
結論から先に言うと
現在の税法解釈では「ベビーシッター代は家事費なので、事業の必要経費にはならない」です
じゃあ、弁護士を止めろと言うのか!
シングルマザーは弁護士をやってはいけないのか!
憲法が保障する職業選択の自由を侵害している!
などと反論も多数あるのですが
今回問題となっているのは、「必要経費になるかどうか?」とうことで
「ベビーシッターを頼んでもいいかどうか?」ではないので、弁護士を辞めろという議論にはなりません
また、働きながら子育てをしている人は、世の中には大勢います
一方、子育してない労働者もたくさんいます
何が違うのか?
そう、職種や労働環境が違うのではなく「家庭環境」が違うのです
子育中という家庭環境だから、子供を預けて仕事をしなければいけないのです
したがって、ベビーシッター代は「家庭環境」によって生じている支出であり、事業によって生じたものではないので、必要経費にはなりません
というのが、現在の税法の取扱なのですが・・・
ここまでが、過去の私の考え方~言い換えれば「国税側の思考」です
そして、ここから税理士的な思考が求められることになります
今回の問題は、シングルマザーが働く機会を減少させているということ
アベノミクスでも掲げている「女性の社会進出」とは逆行する結論が出てしまっているわけです
こういったケースを裁判などで争うと、裁判所は判決文の最後に
「法の改正により対応することが望ましい」とか付け加えるわけですね
結局、法律が現在の労働者の家庭環境にマッチしていないのです
実際、このベビーシッター問題の解決を図ろうという動きが、多くの学者や弁護士や税理士の間で起きていますので、そのうち通達か何かで認められるかもしれません
時代の流れに取り残された法律を変えてゆくことも、税理士を含めた法律家の役目なのですね
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